『ボクたちはみんな大人になれなかった/燃え殻』
初恋の人はいつまでたっても色褪せずに今何しているのだろ?と思い出してしまう。別れてから何年も経つというのにあなたと出会った日のことを事細かに覚えている。
初めて会ったあの日からまた次があると思って別れたあの日のことまでを。
『ボクたちはみんな大人になれなかった/燃え殻』を読んだ。
ある日42歳の主人公ボクは、Facebookの知り合いかもに出てきた22歳の時に出会った初恋の人「かおり」に間違えて友人申請を送ってしまう。この過ちをきっかけとして、幼少期からかおりと出会う前、かおりと付き合ったいた時のこと、仕事、別れ後の記憶、かおり以外に初めて心が動いた人、かおりと約束した夢を叶えたこと全てが鮮明に浮かび上がる。その中で付き合っていた時には気がつけなかった、分からなかった初恋の人の尊さを悟っていく。
初めて人と付き合うまでは、恋人ができたらおしゃれなカフェに行って、ディズニーランドに行ってのように恋人ができたら”どこに行こうか?”と妄想を膨らませてしまう。それは、主人公も然りだが、かおりに「どこに行くかじゃなくて、誰と行くかなんだよ」と言われハッとする。どこに行くかではなく、誰と行くのかが大切であり、同じ行動でも一緒にいる人によって楽しさ嬉しさが全く別物であることを知る。
彼女から教わった音楽を今でも聴いている。彼女から勧められた作家の新刊は、今でも必ず読んでいる。港区六本木にいながら暑い国ことを考えるのは、インドが好きで仲屋むげん堂で働いていた彼女の影響だ。彼女はボクにとって、友達以上彼女以上の関係、唯一自分よりも好きになった、信仰に近い存在だった。ボクが一番影響を受けた人は、戦国武将でも芸能人でもアーティストでもなく、中肉中背で三白眼でアトピーのある愛しいブスだった。
本作で特にぼくが気に入った節はこれだ。節であるのに、一文のようにリズミカルに読め、正しく初恋の人に対する気持ちで好きだ。「唯一自分よりも好きになった人」と言う言い回しが心に刺さる。そして、まだ私自身が20代であるためか20年経った今でも思い続けているというのに驚かされるとともに初恋の人は大きいものなのだと再確認した。
本作の最後に友達申請は許可され、そしてかおりから一つだけ「いいね!」の通知が届く。それは、かおりと初めて会った日に思いつきで行った将来の夢を叶えた写真だった。初恋の人も初めて会った日に話したことを覚えていたのである。このシーンが彼女にとっても主人公が大事な存在であったことを物語っている。
いつまで経っても鮮明に初恋の人を思い出してしまうのは、終盤に出てくる「男は過去の自分に用がある、女は未来の自分に忙しい」からなのかも知れない。
『ボクたちはみんな大人になれなかった/燃え殻』
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