ぼくはきっとまだ童貞だ。
あ、あの人の匂いと思っても平日の昼間、しかもぼくの学校の最寄駅にいるはずがない。
去年不定休の仕事を辞めて、週休二日の仕事を始めたと聞いた。
でも、間違いなくあの人の匂いだった。あの人の匂いは、頭の中から消えやしない。一生消えないと思う。
『ショートソング』/枡野浩一を読んだ。
主人公の国友克夫ともう1人の主人公伊賀寛介。
それぞれの視点が交互に書かれ全100エピソードで完結する。
主人公の国友は、ハーフでイケメンだけど童貞の大学1年生。
もう1人の主人公伊賀は、国友とは真逆のプレボーイ、そして、短歌の天才。
そして、2人を繋いだのが伊賀の彼女の舞子だった。
国友は、童貞特有のすぐ優しくされたら好きになってしまう体質。
童貞は、女の人を疑うことのしないし、優しさは自分にだけ向いていて、優しさは好意であると信じきるもの。
伊賀は、取っ替え引っ替え女の人と、すぐホテルに行ってしまうプレイボーイ。
国友と伊賀は、伊賀と舞子参加している短歌サークル「ばれん」で出会う。
舞子が国友を連れて行った日、国友は舞子に好かれてると勘違いし、デートだと思ってついっていたら「ばれん」だった。好きな女性に振り回されている感じが童貞ぽくて可愛い!
国友が「ばれん」に初めて行った日、伊賀は国友の詠んだ短歌に才能を感じ、興味を持つ。
その後、伊賀と舞子のカップルとのデートに国友は毎度呼ばれ、その度に短歌について学び短歌を作り始める。もちろん伊賀と舞子が仲睦まじくしている脇で。
小説中では、何人ものの人が国友と伊賀の前に現れ、国友は童貞臭く手は出せず、惚れていく。その一方、伊賀は全ての人と一夜を過ごす。
しかし、国友は下半身は満たされずとも心が満たされ、伊賀は下半身は満たされるが、心が満たされない。そんな、それぞれの葛藤とともに話は進んでいく。
童貞って何故だか女性に好かれる。もちろん恋愛対象としてではなく……
好んでくれる人は、どの人も間違いなく優しいけど、きっと童貞だからより一層優しく感じたのだと思う。そして、その優しさに惹かれ、好かれていると思っている、恋愛対象として。
でも、likeとloveは違う。likeされていてもloveられていないのだ。それが分からないのが童貞だ。
街中を歩いているとたまに初恋の人の匂いがする。ドンキで売ってる安い香水の匂い。
もうloveられていないけど、likeされている。
その違いにいつまでも気がつけないふりをする、ぼくはきっとまだ童貞だ。