マイヘアほどリスナーが求める音楽と自分たちがやりたい音楽が乖離していたバンドはいないと思う。
- 1.マイヘアのイメージとは?
- 2.マイヘアのもう一つの伝えたいこと
- 3.「ラヴソング」、「闘志を燃やすロック」に加えて生まれた新たなテーマ
- 4.「人生」を伝えるために構築されたアルバム構成
- 5."boys"の楽曲構成とレヴュー
- 6."boys"と過去二作でマイヘアが伝えたかったこと
1.マイヘアのイメージとは?
まずこれを読んでいる方に聞きたい。
「マイヘアのイメージは?」
答えは思いつきましたか?
多くの人は「重たいラヴソングを歌うバンド」と思ったのではないだろうか。
恐らくこれが最も多いイメージだと思う。
少し重たい愛を貫き別れた後も元カノのことをいつまでも引きずる、そんな曲を思いつくのではないだろうか。
例えば『元彼氏として』、『真赤』や『卒業』あたりを。
この三曲で一気に売れ、その後も『恋人ができたんだ』や『グッバイマイマリー』といった曲たちが生まれ、リスナーのイメージも世の中のイメージも確固たるものにした。
2.マイヘアのもう一つの伝えたいこと
しかし、"時代をあつめて"からマイヘアは変化していた。このEPに収録された『戦争を知らない大人たち』が顕著だ。今までも身の回りの社会を主観的に歌う曲はあったものの、この曲は等身大でありながらも客観的に社会を歌った初めての曲だった。そして、このように社会に対して歌う曲は椎木自身が歌いたかった曲ではないのかとこれ以降の彼らの曲から伺える。
『ワーカーインザダークネス』や『怠惰でいいとも!』のように社会人という希望のない生活、不自由だけど何も言えない一般的な鬱憤を曲にし、若者の代弁を行なっている。
3.「ラヴソング」、「闘志を燃やすロック」に加えて生まれた新たなテーマ
上で述べたように客観的に一般的なことを歌うようになりマイヘアというバンドに新たなテーマが生まれた。それが「人生」である。
恋愛も青春も社会への不満もすべてが人生の一部であり長い目で見ていくとどんな事件であっても大したことでないという考えだ。
この考えは"woman's"の『また来年になっても』から始まっている。この曲ではハッピーエンドを求めるものの上手くいかない日々が続く。だけれども一年という区切りはなんとなく無難に終わっていくと歌う。良い時もあれば悪い時もある、人生楽ありゃ苦もあるさと歌っているのだ。一作品前のアルバム"mothers"でも「シャトルに乗って」で、似たように日々は自分には目もくれず進んでいく。だけどその中には一人ひとりのストーリーがあり、誰かの喜びは誰かの悲しみであると。
今作"boys"でもこの流れを汲んでいるが、今作の中では「人生」を明確に「芝居」、「舞台」と定義している。そして、マイヘアのイメージである「重たいラヴソング」でさえも、「人生」に落とし込んでいるのだ。
4.「人生」を伝えるために構築されたアルバム構成
ここで今作も直近二枚と同じ構成であることに注目したい。前半5曲で恋愛ソング、前向きなロックソングを歌い、後半で社会性を込めたロック曲、そしてラストで前向きなラヴソング、アルバムを通して全てが人生であると歌う構成だ。
この構成により、アルバムに対するリスナーの高揚感を前半の感情を高ぶらせる曲で共有し、後半で我に返って日々を顧みさせるが、ラストでいつかはいい事があるから頑張りすぎなくていいから生きてようぜそれが「人生」だからと、楽曲というフィクションを実生活に結びつけ曲たちをリアルにさせるのだ。
この形は三作続けた事で彼らの型として、彼らの定石になったと言っていいだろう。恐らくこの構造はこれからも続いていくだろうし、これが彼らの言いたい事でもあろう。
5."boys"の楽曲構成とレヴュー
・恋愛を歌う前半
今作は先にも述べたように全てが人生のように描かれている。というのも前半の曲たちが繋がっているからだ。
『君が海』で高校生時代の淡い恋を振り返り、『青』で青春に心を馳せ、『浮気のとなり』で元カノと会う彼氏への不満、『化粧』で久しぶりにあった(恐らく『君が海』の)元カノに心が揺れそうになるも、『観覧車』では今好きな人とのデートを歌う。そして、『ホームタウン』で、高校生以降の思い出を地元の風景とともに思い出す。前半の曲の情景はこの地にあると言わんとばかりに。
・後半で撃ち放つ社会へのメッセージ
アルバムの後半では社会へのメッセージとして、学校生活での共同作業や仲間つくりを謳うが大人になったらそれが正解でなくなるし、恋愛に対して理性よりも本能が勝ってしまうこと、働くことへの希望のなさ等に何もできないやるせない自分を歌う。一般的にみたら彼らはある程度売れているようにみえる。もし安泰を狙うならばリスナーが求めるような曲を書けばいいものの、社会を辛辣に批判するというのはそこに想いがあり、椎木の中では売れるというよりもこれらのメッセージによって人の心を動かせたいという気持ちがあるのではないだろうか。
・重たくもとても前向きなラヴソング
ラスト前には『いつか結婚しても』を想起させられるような前向きなラヴソング『虜』を歌う。まだ見ぬ結婚相手に向け、全てを投げ打ってでも「君の最後を頂戴」したいと願う。全てを投げ打ってでも結婚したいと付き合う前から言われるのは、重い愛かも知れない。しかし、結婚というのはそれほどの覚悟が必要であるし、重たい失恋ソングを歌ってきたマイヘアが重たくも前向きなラヴソングを歌うのが面白いのだ。
・人生という「芝居」
そして、ラスト二曲で全ての出来事は『芝居』であり上手くいくばかりではないけど、筋書きのある物語のように悪いことがあっても良いことが必ずやってくると語る。だが芝居のように強引な物語の展開もないということも同時に。ーー例えば大好きで復縁したいとふと思い出す元カノとまた付き合える。結婚できるなんてことはないとーー
6."boys"と過去二作でマイヘアが伝えたかったこと
マイヘアのイメージである重たいラヴソングが単体でフォーカスが当たることに嫌気がさし、本当に伝えたいことを伝えるためにこの方式をとったのではないだろうか。今作でやっと終わりがあるのは始まりがあるからであり、悪いことがあるから良いこともあるからであり、そして全てが人生であるということがリスナーに伝わるだろう。
"boys"/My Hair is Bad
1.君が海
2.青
3.浮気のとなりで
4.化粧
5.観覧車
6.ホームタウン
7.one
8.愛の毒
9.lighter
10.怠惰でいいとも!
11.虜
12.舞台をおりて
13.芝居
HP